リニアの最大障壁が消えた橋本。「品川まで10分」までの時間差をどう読むか

RETTO チームです。今回は、リニア中央新幹線の神奈川県駅が予定されている橋本(相模原市緑区)を取り上げます。
「リニアが来たら化ける」と言われ続けてきた街を、投資の候補リストの中でどう扱っていますか。ずっと「いつか来る」の話だったリニアに、2026年1月、大きな動きがありました。最大の障壁だった静岡工区で、水資源の補償について合意が成立したのです。
数字を並べてみます。橋本の公示地価は2015年に 14.97万円/㎡ でした。それが2025年には 22.6万円/㎡。10年で +51%、直近1年でも +4.78% の上昇です。一方でリニアの開業は、当初予定の2027年から2034年以降にずれ、工事費は5.5兆円から11兆円へ倍増しました。期待は先に価格へ乗り、実物はあとから来る。橋本は、その時間差の街です。
RETTO は、国土交通省の公示地価鑑定評価書30地点をはじめとする公的データから、この時間差の中身を追い風要因と注意したい点の両面で整理しました。先に結論を書くと、橋本の温度感は「追い風」です。ただしその追い風には、開業までの長い時間という条件が付いています。
橋本はいま、どんな街か
鑑定評価書30地点を貫くのは、「一次取得者の街」という性格です。住宅地22地点のすべてで、初めて家を買う人が主な需要者だと明記されています。JR横浜線・京王相模原線・JR相模線の三路線が使えるため、東京・横浜方面の通勤者の転入も続いています。
価格帯の幅が広いのも特徴です。橋本駅前の商業地は土地単価 50〜70万円弱/㎡ が市場水準とされる一方、バス便の住宅地では土地130㎡で1,500万円前後。駅徒歩圏の住宅地は供給が絶対的に足りず、あふれた需要がバス便エリアへ順番に波及していく構造が、複数の地点で確認されています。
一方で、賃貸市場はまだ育っていません。とくに商業地では、投資採算に見合う賃料水準が固まっていないという指摘が鑑定士の大勢を占めます。この点はあとで、収益性の話としてもう一度出てきます。
数字で見る橋本
地価の動きをもう少し細かく見ます。
- 2015年: 14.97万円/㎡
- 2025年: 22.6万円/㎡(10年で+51%)
- 直近1年: +4.78%
エリア内の格差も鮮明です。鑑定評価では、橋本駅直近の商業地が年 +9.4〜+10.8% と突出し、駅徒歩圏の住宅地が +5.4〜+6.5%、バス便圏が +3.9〜+5.5% と、駅からの距離に沿ってきれいに階段状になっています。上昇の中心は明らかに駅前です。
ここで見落とせないのが、全30地点に共通するもうひとつの構造です。地価の上昇に家賃がまったく追いついておらず、収益から逆算した価格が、取引事例から求めた価格を大幅に下回っています。地価は期待で走り、家賃はまだ追いついていません。家賃収入で回す投資として見る場合、この遅れは利回りの低さとして効いてきます。
追い風要因
追い風の中心は、リニアをめぐる動きが「構想」から「実行」へ移ったことです。
まずリニア本体。神奈川県駅の設置は確定しており、開業すれば品川まで10分です。2026年1月に静岡工区の水資源補償で合意が成立し、長年最大の障壁とされてきた問題がクリアされました。鑑定評価30地点のうち25地点以上がリニア新駅に言及しており、このエリアの地価予測の最大の根拠になっています。
次に駅前の区画整理。UR都市機構による橋本駅南口の土地区画整理事業(13.7ha・事業費約290億円)が認可を取得しました。お金と認可がついた計画になった、という意味で、これは決定的な変化です!
鉄道側も動いています。京王電鉄は中期経営計画で橋本駅の移設を明記しました。実現すれば京王・JR・リニアの3駅が一直線に並ぶ配置で、2030年までの着手を目指すとしています。
参入価格の面では、橋本の地価 22.6万円/㎡ は都心主要区の1/10以下の水準です。もっとも、2025年から2027年にかけてはブランズタワー橋本458戸、レ・ジェイドシティ橋本236戸などマンション供給が集中し、この期間は需給の緩みで価格が相対的に抑えられる可能性も指摘されています。供給集中は、見方によっては追い風にも注意点にもなる両面の材料です。
注意したい点
最大の懸念は、やはり開業時期です。リニアの開業予定は当初の2027年から2034年以降へずれ込み、工事費は5.5兆円から11兆円へ倍増しました。合意で障壁が消えたことと、予定どおり開業することは、別の話です。さらなる遅れのリスクは残ります。興味深いのは鑑定士の受け止めで、開業延期の正式発表後も「影響は限定的」という評価が12地点以上で一致しています。延期はすでに価格に織り込まれている、という見方が支配的です。
人口の構造も軽くありません。相模原市全体の人口は2022年をピークに減少へ転じ、緑区は5年で -2.6% です。リニアという特殊要因を外すと、構造的には縮んでいく郊外の街だという事実は、頭に置いておく必要があります。
すでに +51% 上がった地価が行きすぎている可能性も、正面から見ておきたい点です。ダイヤモンド不動産研究所の2024年基準AI予測は、ノーマルシナリオで10年後に2024年比 -5.4%、バッドシナリオでは -15.6% です。強気な鑑定評価と弱気な民間予測が並存しているのが、いまの橋本です。
最後にハザード。相模川に近いエリアには洪水リスクがあり、相模トラフ地震では震度6弱が想定されています。こちらはエリア全体の問題というより、物件選定で回避できる種類のリスクです。
物件タイプ別に見る需要の厚み
同じ橋本でも、物件タイプで需要の厚みは分かれます。RETTO の判定は、ファミリー向けが「厚い」、ワンルームが「様子見」です。
ファミリー向けマンション:厚い
新築の価格帯は、ブランズタワー橋本の3LDKが 7,038万円〜、エクセレントシティ橋本が 3,400万円台〜。都心と比べてかなり手が届きやすい水準です。子育て環境の数字も強く、相模原市の待機児童は市全体で8人(2025年4月時点)、緑区は0人です! 小児医療費の助成は18歳の年度末までで、2027年度からは所得制限と自己負担の撤廃も予定されています。緑区は市内3区で犯罪発生率が最も低く、賃料は3LDKで11万〜15万円。一次取得者の実需に支えられた、この街の主戦場といえます。
注意点は立地です。相模川に近い区画には浸水リスクがあるため、ハザードマップで浸水の深さと継続時間を確かめる前提になります。
ワンルーム投資:様子見
1Rの賃料は 4.6万〜5.2万円、1Kで 5.2万〜7万円 と安く、表面利回りは 5〜6%台 が目安です。青山学院大学相模原キャンパスの学生需要は一定あり、駅の利用者もJR橋本駅が約11.4万人/日、京王橋本駅が約8.2万人/日と厚みがあります。ただ、単身者を強く引き寄せる街かというと、現状はそこまでではありません。リニア工事や京王駅移設に伴う建設・研究関連の単身需要が本当に立ち上がるかが、このタイプの分かれ目です。
見方を見直すシグナル
追い風の前提が崩れたとき、どこに現れるか。分かりやすいシグナルは2つあります。
ひとつはリニアの開業時期です。2040年以降まで後ずれするようだと、期待で積み上がった分の調整が現実味を帯びます。データ上は -20〜-40% の下落シナリオが置かれています。もうひとつは静岡工区の着工です。合意は成立しましたが、そこから3年以上着工できない状態が続くなら、事業自体の見直しリスクを考える局面になります。
鑑定士の中にも、「大規模金融緩和から金利のある世界への移行で、土地価格は上昇から維持へ傾向変化の兆し」という慎重な見通しがあります。追い風のエリアだからこそ、前提が生きているかを定点で確かめる意味は大きいはずです。
だから橋本は「追い風」
橋本の温度感は「追い風」です。リニアと区画整理が「いつかの構想」から「認可と予算のついた実行」へ移り、鑑定評価30地点の大勢が上昇の継続を見込んでいます。
それでも、この記事の最初に書いた時間差は残ります。品川まで10分の橋本が現実になるのは、早くても2034年以降。それまでの時間を不確実性と読むか、街が変わっていく過程と読むか。その比重は、ご自身の投資基準によって変わります。
ここで触れた鑑定評価の要約、地価の推移、物件タイプ別の判定と出どころは、橋本のインサイトボードにまとめています。RETTO は現在 Closed Beta のため、インサイトボードは Waiting List にご登録いただいた方に公開しています。追い風の中身を、ご自身の目で確かめる材料にしてください。
エリア分析への感想や「このエリアも見てほしい」という要望は、お問い合わせフォームから送っていただけるとうれしいです。最終的な投資判断はご自身に委ねられます。RETTO は、その判断材料を中立に整理する立場です。